新幹線 京都の今後の動き

チャタトンとコーラーは、〈UーWho〉のツアーを一九九七年六月一日と設定した。 チャタトンが、二一トン用チェーンブロックとアルミの支柱を持ちこんだ。
計画を立てて〈Uーwho〉にアタックするのは、ほぼ四年ぶりのことだ。 しだいにポイントに近づいてゆく〈シーカー〉の後部デッキで、チャタトンとコーラーは落ち着かない様子でうろうろしていた。
「あとはやるだけだ」チャタトンがいった。 「再挑戦だ」コーラーが答えた。
計画は二段階に分かれていた。 最初のダイブで、コーラーが脱出管を正確に計測する。
いったん船に戻一ってその数字を検討したのち、二度めのダイブで脱出管にチェーン守フロックを装着し、それを引きだす。 すべて順調に行けば、両機関室へ自由に行き来できるようになるだろうそしてできれば、艦名タグのついた予備部品箱を見つけたい。

空模様と潮の流れがおだやかに子をふって、ダイパーたちを迎えた。 チャタトンがアンカー・ロープを滑りおりて、アンカーを沈没船に固定した。
そのあとにつづいたコーラーは、発令所に大きくあいた傷口から内部へはいり、後部へ向かった。 ディーゼル機関室にはいってすぐ、脱出管が目の前にぬっと現われた。
鋼鉄の大きな円筒は、部屋の両側に置かれた二基の巨大ディーゼル・エンジンのあいだに、三O度ほど斜めになって倒れかかっていた。 アインシュタインの髪型のように、円筒のそこらじゅうから針金が伸びていた。
近寄りす、ぎればダイバーの命が奪われかねないような、異様に長い試練のときものも数本見えた。 コーラーはそろそろと移動した。
その障害物の大きさを計測するはずのところを、彼は、持っていた金てこを引っぱりだした。 コーラーが子どものとき、父親はこういい聞かせたものだった。
「ある程度の大きさのてこさえくれれば、地球を動かしてみせる」だしぬけに、その教えがコーラーの頭に浮かんだ。 脱出管とエンジンとのあいだに、金てこをそっと差しこんだ。
鋼鉄の円筒がすこしくらいはたわむかもしれない。 彼はあたりを見まわして、円筒が倒れそうになったら、すばやく逃げられそうな場所にあたりをつけた。
金てこをぐっと押しこんだ。 円筒形の脱出管がみしみしと音を立てながら揺れて、針金がコーラーのマスクのほうに触手を伸ばし、泥の雲が舞いあがった。
コーラーはそのままじっとして、息づかいを抑えた。 もともと、脱出管の大きさを測るつもりで来た。
だがいまは、あらたなアイデアで頭がいっぱいだった。 腕ずくで脱出管を動かすのだ。

むろん、そのために彼は命を落とすかもしれない。 死にいたる道は十数通りあった。
だが彼は、本来の自分からずいぶん長いあいだ離れていた。 彼には、死んだ乗組員に対する責任があった。
自分がそれをして当然だと思った。 コーラーは、もう一度金てこを動かした。
それに応えて、円筒が揺れた。 いまや視界は三0センチもない。
彼ならこいつを持ちあげられる。 コーラーはふりむいて避難路をさがしたが、ほとんど役に立ちそうになかった。
もしも脱出管が上から落ちできたら、彼は身動きがとれなくなるか、押さえつけられて息ができなくなるか、腐った床とのあいだで押しつぶされるかだろう。 しかしチャタトンはコーラーのじゃまにならないように潜水艦の前部で調査しているのでそのことに気づかないだろう。
コーラーは、脱出管の縁の下に片手を置き、ささえとしてもう片方の手をエンジンの上に置いた。 両足を相撲取りのように広げて、エンジンを固定している鋼鉄の台にしっかりと足場をかため、足を滑らせて、格子の床に足をつっこまないよう祈った。

そうしておいてから、父の釣り船で重さ二0キロのハタを魚鈎で引きあげたときに、生まれてはじめて腕と腹と首のありったけの力を使ったあの八歳の日のように、これまで使ったおぼえのあるあらゆる部位の筋肉に力をこめた。 脱出管が、一五センチほど床から持ちあがった。
脱出管の鋼鉄と、半世紀ものあいだ接触したままだったエンジンの鋼鉄とがきしんで音を立てた。 「手前に倒れるなよ」コーラーは脱出管に向かっていった。
「おれの上に倒れてくるなよ」さらに力をこめて持ちあげた。 脱出管は床からだんだんと離れ、一瞬、アカスギであやういパランきこりスを保つ樵さながらに、コーラーがそれを手でささえる格好となった。
床がきしんだ。 彼の腕は燃えるように熱かった。
そのままあとずさりした。 そして、自分の身体がエンジンの前端を離れたのがちらりと見えたので、彼は手を放し、脱出管の円筒を下へ落とした。
自分の身体から遠ざけるように、ぬかりなくそれを押しやった。 脱出管は床に落ち、左にぶつかって、焦げ茶色の油っこい泥をもうもうと立ちこめながら、同時にUボートの鋼鉄の船体に轟音をひびかせた。
コーラーは息を殺して下を見た。 閉じこめられてはいなかった。

死んではいなかった。 まわりはまったく見えなかったが、ダイパーとして最大かつ最重要なことをなしとげたのはわかった。
彼は、動かせないものを動かした。 電動機室へ行く道をふさいでいたじゃまものを打ち倒した。
コーラーは、二基のディーゼル・エンジンのあいだを泳いで、電動機室へはいりたかった。 しかし息は切れ、視界はゼロまで落ちている。
奥へ行くのは、きょうの二本めのダイブまで待たなければならないだろう。 コーラーはゆっくりと外に向かって泳いだ。
アンカー・ロープをったってあがりなが試練のときら、彼は思った。 「やったぞ」海からあがったコーラーは、チャタトンに経緯を話した。
聞いていたチャタトンは目を細めて、首をふとかしげた。 「なにをしたって?」「腕力であれをどけた。
動いたんだよ。 はいれるようになったぜ」「そのために三トン用のチェーン守フロックを持ってきたっていうのに、きみは腕ずくで動かしたって?」「動くような感触があったんだ。
おれがやらなきゃならないと思った」チャタトンが首をふった。 「きみにはくそ度胸があるな、リッチー。
たいしたもんだ、すごく危険だったぞ。 いやはや、ほんとたいした度胸だ」「どんな危険があるかを細かく考えないほうがいいのかもしれないよ」チャタトンのあとから船室へはいりながら、コーラーがいった。
「肝心なことがある。 いまから三時間後には、おれたちは電動機室にいるってことさ」正午ごろ、チャタトンとコーラーは、部品箱を発見できることを願ってリフトバッグと収穫袋をたずさえ、また海へはいった。

一分後には〈UWho〉の内部にいた。 ディーゼル機関室に立ちこめていた泥は静まり、後部の視界は澄んでいた。
ダイバーふたりは、自分たちに見えたものが信じられなかった。 コーラーがどかした脱出管のすぐ奥に、またべつの障害物があったのだ。
こんどのは、天井の耐圧殻におさまっていた、巨大な三日月形をした鋼鉄の燃料タンクだった。 チャタトンとコーラは、Uボートが爆発したときに天井の耐圧殻から脱落したと思われるタンクを見つめた。
そばへ近寄って、調べてみた。 タンクの長さはおよそ四メートルで、かなり重そうだ。
二基のディーゼル・エンジンのあいだに斜めにがっちりと食いこんでいて、その上部と天井とのすきまはごくわずかしかない。 コーラーがどかした脱出管以上に厄介な障害物だった。
ふたりは、二一トン用チェーンブロックでもこの物体を動かすのは無理だとたちどころに悟った。 たがいの顔を見あわせたはいいが、だめだというように首をふる気力もなかった。

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